優しくない人を好きにはなれない。たとえ、普段は冷たいと感じる人でも、優しい部分があるから、誰かに好かれるんだと思う。でも、優しい部分があるっていうのも問題だ。だって、それは女慣れしている可能性も否めないから。仮にそうじゃなかったとしても、優しく接することができるというのは、それだけ他の人に好かれることが多くなる。結果、浮気しやすくなる。だけど、やっぱり優しくない人とは一緒に居たくない。
とどのつまり、男を好きにならない方がいい。


・・・。それは極端すぎ。」


親友のにそう言われても、私の意見は変わらない。


「まだ10代なんだから、そんな考えじゃ損よ?」


いいよ、いいよ。別に。


「男に興味が無いわけじゃないでしょ?」


・・・・・・そりゃ、無くはない。私だって、彼氏とかできればいいなぁ、とは思うよ。でもさー、せっかく恋愛するなら、楽しくて幸せだと思える方がいいじゃない。優しくされたいし、浮気もしないでほしい。


「・・・なんか、トラウマでもあるの?」

「そんなの無いよ。」


残念ながら、トラウマなんて抱えられるほど、恋愛してませんから。と言うか、今まで彼氏とかいないし。ただ、男の人って、浮気をする生き物なんだってテレビとかで聞くし・・・。信用ができないんだよねぇ・・・。


「あの、さん。これ、先生が渡しておいてって。」

「えぇ?鳳くん、違うクラスなのに?」

「いや、どうせ、ここの教室の前も通るからね。」

「ごめんね。ありがとう。」

「いいよ。それじゃ。」


鳳くんは爽やかな笑顔でそう言って、教室を出て行った。・・・この話、聞かれてなかったよね?
別に、鳳くんに恋愛感情は無いし、鳳くんも私のことなんてそんなに知らないだろうけど、さすがに少し失礼だと思うし・・・。
そんな心配をしていた私とは裏腹に、はまたさっきの話に戻した。


「ねぇ、鳳くんは?鳳くんって、優しそうだし、浮気もしなさそうじゃない??」

「そんなのわかんないよ。鳳くんだって裏があるかもしれないし。それに、あんなに優しくてカッコイイなら、浮気もできるしね。」

「本当疑い深いわねぇ・・・。」


疑い深いぐらいが良いと思う。それなら、絶対に騙されることはないから。


「そういえば、何渡されたの?」

「ん?・・・ノート。この間、提出したとき、私だけ返却されなくて。」

「たしかに、そんなことあったわね。」

「先生って、『机の中は綺麗に!』とか言う割に、自分たちも意外とそういうとこあるよねー。」

「まぁ、先生だって人間だからね。それに、先生たちは生徒の数だけ、ノートも多いわけだから。」

「そうだけどさー・・・。」


そんな話をしていると、ふと横に人の気配を感じた。そして・・・私は、ソイツと目が合ったが、特に何の反応も示さず、またの方を向いて、話を続けた。


「でも、なんとなく、先生はズルイとか思っちゃうよ。」

「おい・・・。お前、俺に何か言うことは無いのか・・・?」


若干、怒り気味に言われ、私は仕方なく、もう1度、ソイツを見上げて言った。


「えぇっと・・・。おはよう?」

「そうじゃない。そこは誰の席だと思ってんだ。」

「私。」

「お前は、その後ろだろ。」

「だって、今、その席はの席だもん。」

「・・・・・・無理矢理、椅子から下ろされたいのか?」

「わかったよ。はいはい、今まで席を貸してくれて、ありがとねー。・・・よし、の席の方行く?」


私はいい加減にお礼を言うと、席から立ち上がり、またへ顔を向けた。だけど、ソイツはそんな私に対して、こう言った。


「別にそれさえ言えば、この席を使っても構わない。」


・・・素っ気無い言い方だけど、コイツなりの優しさだってことは、私もわかってる。


「ありがと。でも、いいよ。の隣も空いてるから。行こ、。・・・若、ありがとね。」

「・・・そんなに何度も言わなくてもわかってる。」


これまた、無愛想な言い方ね。そんなんだから、周りに誤解されるのよ?
私が今まで座っていた席、つまりは私の前の席の奴は、日吉若といって、私の幼馴染だ。だから、付き合いも長いし、本当はいい奴なんだってわかってる。だから、若のそんな態度にも、特に何の反応もせずに、私たちはの席へ向かった。


「・・・で、何の話してたんだっけ?」


の隣の席に着くと、私は話を戻した。
それなのに、はそれには返事をせず、自分の席に座りながら、何かを考えていた。


・・・?」

「・・・ねぇ。日吉くんはどうなの?」

「へ?何が??」

「日吉くんなら、浮気しなさそうじゃない!」


・・・あぁ、その話か。一応、も話を戻すつもりはあったようだ。・・・あれ?でも、直前までは違う話をしてたような・・・。
・・・あぁ!そうだ、ノートだ。先生が私のノートだけ返してくれなくて、先生も整頓してんのかなぁーとか言ってて・・・。


「で、。どうなの?」

「え?・・・あぁ、若?」

「そう!しかも、日吉くんって意外と優しいところもあるじゃない?」

「んー、まぁ。そうだねぇー。」

「何、そのテキトーな返事!」

「だってー・・・。若は幼馴染だもん。」


たしかに若はいい奴だ。しかも、あんな真面目な奴が浮気するとは思えない。見た目はカッコイイと思うし、できなくはないのにねぇ。それに、頭も良いし、スポーツもできる。・・・彼女がいないのが不思議なくらいだ。
だけど、アイツはそういう奴だ。恋愛になんて興味ない。ただ、テニスにおいても、古武術においても、『下剋上』したい。それが若の1番だろう。


「でも、幼馴染から恋に発展っていう・・・。」

「無い無い。」

「・・・・・・はぁ。本当、無いのね・・・。」

「うん、絶対無い。」

「そこまで言い切る?日吉くんが可哀相だわ・・・。」

「だって、あの若だよ?絶対、女の子に興味無いもん。」

「どうかしら。・・・じゃ、逆に、はどうなのよ?日吉くんがもし、のことを好きだったら・・・。」

「無い!」

「・・・はい、わかった。」


そう言いながら、は少しため息を吐いた。・・・でも、無いものは無いでしょ?さっき、若に彼女がいないのが不思議だなんて思ったけど、それはあくまで、モテるという事実を述べただけだ。たとえ、人気があったとしても、若自身が彼女をつくる気なんて全く無いだろう。そういうのに興味が無さそうだし。だから、若に彼女がいるなんて、ましてや好きな人がいるなんて、可笑しい話なんだ。


「じゃあ、日吉くんは無かったとしても。は無いの?」

「若が無いのに、私だけがあったら損じゃない!」

「・・・恋愛って、普通そういうものだと思うけど。まぁ、いいわ。自分の席に戻ってからも、考えといて。」


えぇ?なんでよー!とか言っている私を無視して、は私の背中を押し、私を元の席に戻した。


「はい、日吉くん。は返すよ。」

「・・・別に。俺はの保護者じゃない。」

「日吉くん??」

「・・・・・・わかった。・・・ありがとう。」


が笑顔で若の名を呼ぶと、若がため息を吐きながら、そう言った。
それを見てると、若は、なら好きになるんじゃないかと思った。だって、は優しいし、美人さんだし、賢いし・・・。たま〜に、黒い部分もあるけど。・・・たまにかな・・・・・・。まぁ、普段は普通にいい子だし、若とならお似合いな気がする。
私なんて、幼馴染という関係だからこそ、若の隣に並べるけど・・・。本当は、が若の隣に並ぶべきなんじゃないかな。
そう考えると、何だか寂しい気もするなー。・・・って、私が勝手に話を進めてるだけだけど。


「・・・?」

「ん〜、何?」

「いや・・・。いつも以上にボサッとしてるから。考え事か?そうするにも、まずは席に座れよ。」


・・・本当、若は容赦ない。『いつも以上』ってことは、いつもボサッとしてると言いたいのだろう。それに対して、特に反論する気も無かったので、私は大人しく席に座った。


「・・・・・・本当にどうかしたのか?」

「どうして?」

「いつもなら、もうちょっと言い返すだろ。」


全く・・・。若の中で、私はどんな印象なんだ。・・・まぁ、言いたいことはわかるけど。
こんな感じだから、さっきが言ってたことは、絶対に無い。だから、私も無い。
・・・ずっと、そう思ってきた。いや、これからだって、そう思っていくだろう。でも、それを少し寂しくも感じてしまう・・・。
あぁ!!の所為で、変なこと考えるようになっちゃったじゃない!!


「別に。ちょっとした考え事だよ、考え事。」

「・・・お前だけで考えても無駄だろう。話してみたらどうだ?」


相変わらず、腹の立つ言い方をしてくれる。・・・もちろん、これも若の優しさだってことはわかってる。そう、そんなこともわかるぐらい、私は若を知っていて・・・。若のことを思っていて・・・。
だけど、それは恋愛感情じゃない・・・・・・と思う。うん、違うよ。


「若に彼女ができないのかなーって。」

「はぁ?何の話だ。」

「さっき、と言ってたんだよ。」

「・・・。が何か言ったのか?」


・・・・・・。若がの名前にすごく喰い付いた。もしかして、やっぱり気になる・・・とか?


が何言ったのか、気になる??」

「・・・・・・・・・お前。変な勘違いしてねぇだろうな?」

「さぁ、どうだろう。」


私がそう言うと、若が思い切りため息を吐いた。
何よ、そこまで呆れなくてもいいじゃない。それに、勘違いかどうかもわからないじゃない。
そう考えると、少し私はイライラしてきた。・・・一体、何に??
若の素気ない返答に?若の小馬鹿にした態度に?それとも・・・を好きかもしれない若に??


「言っておくが、のことは、別に・・・・・・。」

「いいよ、いいよ。何なら、協力してあげようか?」


若が言い切るのも遮って、私はなげやりにそう言った。若は若で、またため息を吐いていた。
・・・本当、何だろう。どうして、こんなにもイライラするんだろう。だって、若の態度はいつものことじゃない。それに、今更こんなにもイライラする・・・?
ってことは、やっぱり、私は若のことが・・・好き・・・なの?だから、嫉妬して・・・?


「はぁ・・・。どうして、お前らは同じようなことを言うんだ?まぁ、の方がまだマシかもしれねぇが・・・。」


なんでは良くて、私はダメなのよ。そこに、また私はムッとした。
・・・って、ちょっと待った。


にも同じようなことを言われたの?」


私がそう言うと、若はほんの少し表情を歪めた。


「・・・・・・若?」

「・・・なんだ?」

「いや、だから。にも同じようなことを言われたの?って話。」

「あぁ・・・、まぁな。」

「若が私のことを好きなら、協力しようか、って感じで?」

「そういうことになるな。」


・・・、私だけでなく、若にもそんな話をしてたんだ。・・・まったく、いつの間に。
何にせよ、私はやっぱり今の若との関係を壊したくなくて、若にも同意を求めることにした。


、すごい勘違いだよね!」


それなのに。若は、やっぱりため息を吐いた。


「・・・お前の方が酷い。」

「さっきもの方がマシとか言ってたけど、何がいけないのよ?」

「さぁな。」


若のそんな反応も、いつも以上に腹立たしく・・・。


「やっぱり、の方がいいんじゃない。のこと、好きなんじゃないの?」


・・・なんて言葉を吐き捨てた。


「そう言う時点で、お前の方が鈍くて嫌なんだ。」


い・・・や・・・?『嫌』ってこと・・・?
その言葉だけが、私の頭の中で綺麗に再生された。
のことが好きなんじゃなくて、私のことが嫌いなの?私は、若のことが大好きなのに・・・。それは幼馴染として、ということだけじゃないのかもしれない。そんなことを思い始めていた私には、とても痛い言葉で・・・。私はただ俯いた。


「ごめんなさい・・・。でも、できれば嫌いにならないで。・・・私にとって、若は大きい存在なんだよ・・・。」

「・・・・・・・・・。お前、俺の言ったこと、絶対理解できてないだろ。俺は、鈍いから嫌だって言ってんだぞ。」

「・・・??」

「俺がのことを好きなんじゃないか、って思ってんのが鈍いって言ってんだ。」


若はいつものように呆れた顔で、そう説明した。


「で、そういう点ではの方が正しいことを言えてるってだけだ。」

「・・・・・・・・・・・・え、は正しいの??」


そんな疑問符ばかりを浮かべている私に対し、若はただ頷いただけだった。
が正しい・・・。それじゃあ・・・。


に協力してもらってるの?!」

「協力はしてもらってないと思うが。相変わらず、はこんなんだしな。」


さんざん鈍いと言われてきたけれど・・・。さすがの私でも、そろそろ気付く。


「ってことは・・・!!若は私のこと・・・!!」

「うるさい。」


・・・私が相変わらずなら、若だって相変わらず、だ。ここで、いいムードになっても良さそうなものの・・・。まさかの「うるさい」という一言。


「でも、これからも若の傍にいていいってこと?」

「当たり前だろ。」


何だろう、この気持ち。妙に鼓動が高まって・・・。妙に体温が上昇して・・・。妙に頬の筋肉が緩んで・・・。


「私も好き!」


最終的に、そんな言葉が自然と出てきた。・・・うん、やっぱり好きだよ。若のことが。


「・・・お前、意味わかって言ってるか?」

「馬鹿にしないでよ!」


今まで幼馴染という関係に、安心感もあったんだと思う。でも、本当は若のことが大好きで、大事な存在だったんだ。・・・まぁ、それは昔から、そうだったけど。ただ、恋愛という風には考えられなかっただけだ。


「さっき、と話したことがきっかけかもね。」

「そうなのか?」

「うん、たぶん。じゃ、は協力してくれたってことだね!ちゃんとお礼を言わなくちゃ!」


本当に感謝だ。だって、若以上に素敵な人っていないでしょ?そんな人を好きなんだ、って気付かせてくれて、ありがとう!


「早速、惚気ですか。それに、さっき言ってたことと全然違うけど?」

「そんなことないって!だって、若は優しくて、浮気もしないから。」

「はいはい・・・。幼馴染からの恋の発展、おめでとう。」


半ば嫌味っぽく言われたけど、やっぱりは私たちのことを祝ってくれるみたいだ。


「ありがとう!」


やっぱり、人を好きになるって、大事なことだよね。・・・って、これがさっきと全然違うか。













 

相変わらず、オチが弱くて、すみません・・・!!!と言うか、全体的に・・・orz
と、とりあえず。今回は、私の周りには、素直に恋愛感情を認められなかったり、男性自体に好意を持てなかったり、といった友達が何人かいたので、こういう話を書いてみようと思いました。
あと、『初恋限定。』の影響も多少あると思います(笑)。

それにしても、珍しく両方が名前呼びです。私としては、日吉くんの話を書くと、苗字で呼び合う2人、というイメージを思い浮かべがちなので、すごく新鮮でした!
と言うか、何度か「日吉」と打ってしまいましたし・・・(笑)。でも、これはこれで楽しかったです!

('08/06/19)